みんな元気ですか
落日の騎士団・・・![]()
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キプロス島 リマゾ―ル 1292年4月
方形の塔のようなコロッシュ城の東の胸壁から
ジャック・ド・モレ―は眼下に広がる地中海のかなたを見つめた。
白いマントと鳶色(とびいろ)のあごひげが暖かい風にはためいた。
威厳を漂わせたその顔は、そろそろ50になろうという騎士にしては
驚くほど若々しかった。高い鼻、するどい灰色の目、太い眉、
くっきりと浮き出た頬骨。白髪まじりの豊かな髪は短く刈り込まれていた。
聖地そのものは影すら捕えられなかったが、かの地のユーカリの
木が放つ方向は確かにとらえたと思った。
エルサレム東部に最後まで残っていた十字軍の拠点アッコンが
エジプト・マムルーク軍の手に落ちて、一年が過ぎようとしていた。
6週間持ちこたえた籠城に終止符が打たれたのは、当時の総長
ギヨーム・ド・ボージューが剣を捨てて城壁から退いた時だった。
団員達の非難にド・ボージューはこう答えた。
・・・ジュ・ヌ・メンフィ・パ・・・ジュ・スィ・モール・・・
”逃げるのではない。死ぬのだ。”彼は血まみれの腕を上げて
脇腹に深々と突き刺さった矢を見せると、その場に倒れ、二度と
立ち上がることはなかった。
ド・ボージューの死は騎士団そのものの運命の予兆だったかもしれない、
とド・モレ―は思った。
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これはキリストの遺骨のDNA鑑定というテーマを扱った
マイケル・バーンズ著「聖なる遺骨」(THE SACRED BONES)という
長編小説のプロローグの始まりの部分です。
ここに出てくるエジプト・マルムーク軍に敗れるド・ボージュは
テンプル騎士団第21代総長=グランド・マスターでした。
そして地中海を見下ろす騎士ジャック・ド・モレ―はその後
第23代総長になります。
ここに暗示されているようにド・モレ―はテンプル騎士団の
最後の総長となりました。
当時のフランス国王フィリップ4世の謀略により彼も仲間と
共に事半ばにして非業の最期を遂げます。
実はこのプロローグにはテンプル騎士団の秘密に関する
ヒントがいくつか隠されています。
この舞台がある地中海のキプロスは騎士団が全盛期には
すべてを所有していた島でした。
総長の名前に「ド」が付いていますがこれはフランスでは
貴族の出身を表しています。通常この「ド=de」の後には
治めていた地名が表されます。戦う騎士たちは修道士でも
ありましたが同時に幹部クラスは貴族でもあったのです。
白いマントに赤い十字を染め抜いた重装備の騎士は貴族出身で、
通常平民出身で軽装備の従士を10名ほど従えていました。
地域の総括がその上にいて、そのすべてを取りしきるのが
グランドマスターである総長だったのです。
上下関係が非常に厳しい軍隊組織でした。
上級者の命令は絶対でした。
その分上に立つ人間には責任も重くのしかかります。
第21代総長ド・ボージューが敵の矢に倒れた時に残した
最後の言葉にも実は騎士団の秘密が隠されています。
騎士団は最後の一兵まで死して戦う事を美学としていました。
敵に降伏する事は考えていませんでした。
まして敵前から逃亡することは彼らの美学に反する行為です。
それが”逃げるのではない。死ぬのだ。”という言葉に
表されています。
ユーカリの木はイスラエルを象徴しています。
その香りは
彼らが確かにそこにいた事を
自分たちが支配していた土地を
そして遠くなりつつあるエルサレムを
紺碧の地中海をはさんで望む今
再びかの地に戻るという見果てぬ夢を
万感の思いと共に連れてくる香りかもしれません。
続きはまたね・・・![]()
(テンプル騎士団)


