龍が通れば 7

みんな元気ですかラブラブ

昨日の続きグッド!

ワコはこのころは15歳。

寝る間も惜しんで増えつつあるユダヤ難民の世話をしていた。

病気やけがをしている者も少なくない。

長い過酷な旅でみな体力の限界を超えていた。

ワコはそんな避難民に分け隔てなく接した。

彼女自身もまだ子供。

しかし自分には少なくとも食料とあたたかな寝場所がある。

それを考えるとじっとしていられなかった。

避難民の間を動き回って何が足りないか、何が必要か物心両面にいつも注意を払っていた。

小さい子供たちからもとても慕われていた。

ワコが行くとみんなが寄って来た。

比較的裕福なユダヤ人はもともと上海にいた人たちが中心でイギリス租界に住んでいた。

ロシア系ユダヤ人はフランス租界に住んでいた。

しかしナチに追われたユダヤ人はほとんどがやっとの思いで日本租界地区にたどり着いた。

みんなが日本租界に押し寄せてきた。

テンゾーの好意に甘えた。

お金もなくその日暮らしの貧しい生活をしている者も多かった。

テンゾーはそんな避難民に持てるものをすべて分け与えた。

だからワコ達の生活もだんだん厳しくなっていった。

しかしワコも子供だと言って甘えているわけにいかなかった。

イギリス租界に行って父親が渡りをつけたユダヤ人に支援の食料を調達に行くのは彼女の日課になっていた。

テンゾーの家に居候をしていたロシヤ人のザワロフに父の車を運転してもらっていつも二人でイギリス租界まで出かけた。テンゾーは上海市政府の要職にあったので車を持っていた。二人で車に積みきれないほどの食料を積んで家まで何度もイギリス租界と日本租界を往復することもあった。

ワコはいつも体力の限界に挑戦しているような毎日だった。

でもワコにとっては楽しく充実した日々でもあった。

みんなのために働くことがこれほど充実した事だと始めて知った。

彼女の持ち前の明るさで暗かった難民たちも少しずつ笑顔を取り戻していった。

だがゲシュタポの手は日本租界にいるユダヤ難民にも伸びようとしていた。

テンゾーにユダヤ人名簿の作成に協力するよう要求してきた。

これに協力すれば過酷な運命がユダヤ人たちを待っていることは明らかだった。

テンゾーは決断を迫られた。

彼は長年の友人である香港の英国統治政府高官にこのことを相談した。

高官は独断で一定のユダヤ人を香港に受け入れることを約束してくれた。

数家族に分けてジャンク(木造中国船)に乗せ香港まで移送する計画を立てた。

しかしこのころから香港にも日増しに激しさを増す中国国内の戦火をのがれて中国人の難民が押し寄せていた。

当時中国国内は台頭してきた毛沢東の共産軍と蒋介石の国民軍が激しい戦闘状態にあった。

数十万人の中国人が国境を越えて香港に不法滞在し、その数はさらに増えつつあった。

英国統治政府はこれを押し戻すことは出来なかった。

その後時は移り不法滞在者はすべて香港で市民権を獲得することになる。

香港に受け入れることは出来るが住居などの提供は出来ないとの返事であった。

結局ユダヤ難民はアバディーンとレパルスベイの間のポクフーラムの海岸沿いにテント村を作り、そこに仮の居住地を作ることにした。ジャングルのような林の中である。

それはある意味香港に来ても追い返しはしないという程度の受け入れ方であった。

当時はそれが英国統治政府の精いっぱいのテンゾーに対する誠意だった。

英国統治政府も当時は混乱を極めていた。

それは日本軍と香港をめぐって戦いが始まる一年前の事であった。

その後日本軍は香港を制圧し敗戦まで4年近く占領することになる。

ある日テンゾーの自宅が武装した集団に数日以内に襲撃を受けると言う情報が杜月笙から入った。

テンゾーはそれを聞くとワコにユダヤ人とジャンクに乗って香港に逃げるように指示した。

しかしワコはまだ残っているユダヤ人の家族をおいて自分だけが先に逃げる事は出来ないと言い張った・・・

自分になついている子供たちもおいては行けなかったから。あと数人の子供が残っていたのだ。

数家族を逃がした後、最後の家族と自分も逃げる準備を急いでいるときにワコは自分たちを狙っていた武装集団に発見されてしまった。その男たちに最後のユダヤ人家族とともに射殺されてしまったのだ。

武装集団はテンゾーも襲ってきた。

上海市政府の庁舎にいたテンゾーは杜月笙の組織の導きによってからくも自らの命は救われた・・・

ワコの死を知らされた時彼は涙して天を仰いだ。

もっと早く強引にワコを逃がせばよかったと後悔した。

しかしすべてはもう遅かった・・・

この時運命の歯車が狂ってきたことを知った。

彼の肩にはあまりにも多くのことがのしかかっていた。

出来るだけ多くの人を救いたかったために・・・

そして多くの仕事に忙殺されている間にワコを守ることに関して手薄になっていた。

同時に混乱の激しさを増していく上海でもうこれ以上自分の出来る役割は終わったとも思った。

以前の上海とはすべてが違っていた。

自由な空気の上海はもう何処にもなかった。

まして最愛の娘を失った今・・・

ワコはユダヤ人にとっては天使のような存在だった。

しかし自分にとっても天使以上だった・・・

テンゾーは上海をあとにする決意を固めた。

この後上海は日本の軍部が武力制圧することになる。

いよいよ次回フィナーレです。続きをまた読んでね…グッド!

イッピーの独り言

(うー、ワコが死んじゃうなんてかわいそうだよ~ショック!

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